『勝てないアメリカ』
『序局』編集者日誌
『勝てないアメリカ ― 「対テロ戦争」の日常』
■ 前回紹介の映画『アメリカ 戦争する国の人々』に描かれた戦争国家アメリカの「その後」を報告するような1冊が『勝てないアメリカ ― 「対テロ戦争」の日常』(大治朋子著・岩波新書)です。
本書がレポートしているのは次のような事実です。
・イラクなどでの爆弾攻撃によって米軍兵士は損傷を受けるが、防護服や装甲車の装備などが高度化していてベトナムでのように即死したりはしない。しかし、爆発の衝撃波によって脳に「見えない傷」を生じ、帰国後その脳の損傷(TBI:外傷性脳損傷)によって苦しむ兵士が急増している(イラクやアフガニスタンでの戦争に従軍した兵士200万人の約7%が発症)。しかし、はっきりした外傷が見られないため、戦闘による負傷と証明されず国からの補償は受けられない。そのことは、傷ついた兵士を再び戦場に送り込む強制力となっている。
・09年オバマは財政の立て直しを進めつつ、アフガン戦争を拡大する必要があった。「そこでオバマ政権が推進したのが無人航空機などを積極的に利用した戦争のロボット化と民間軍需会社の活用だった」。オバマはブッシュ以上に空爆を強化し、民間人の犠牲を増やした。
・飲酒の深化、犯罪、自殺など基地内の荒廃が一気に進んでいる。
・無人機のパイロットは、米国内の基地から通信衛星を使って無人機を「操縦」し、イラクやアフガニスタンで殺人を繰り返している。彼らは、「自宅で家族と共に朝を迎え、子どもたちを学校に送りだして基地に出勤。モニター画面に映る「戦場」で戦い、再び家族の待つ家に帰る。ユウカタには子どもの野球のコーチまでこなす」。しばしば誤爆を生じ、子どもたちを含む人間の命がそのように奪われている。
・「兵士の戦死という犠牲があるからこそ、米国はこれまで国民も政治家も戦争には慎重になってきました。(中略)けれどもパキスタンでの空爆は(米兵が死なないので)米議会で審議されず、戦争という認識さえ持たれていません。これは無人機戦争が生みだした民主主義社会の破壊です」(ピーター・シンガー ブルッキングス研究所上級研究員)。
そこには、映画に報告された状況より、さらに荒んだすさまじい光景がレポートされています。
安倍政権が進む道もその方向に敷かれようとしています。
労働者の力でまず安倍政権を打ち倒さなければなりません。
「『序局』編集者日誌」(2013年07月05日)より